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十 - 18(2 / 2)

「そんな心持ちになってどうするんだい」

「そんな心持ちになって、しばらく佇(たたず)んでいるとたちまち動物園のうちで、虎が鳴くんです」

「そう旨(うま)く鳴くかい」

「大丈夫鳴きます。あの鳴き声は昼でも理科大学へ聞えるくらいなんですから、深夜闃寂(げきせき)として、四望(しぼう)人なく、鬼気肌(はだえ)に逼(せま)って、魑魅(ちみ)鼻を衝(つ)く際(さい)に……」

「魑魅鼻を衝くとは何の事だい」

「そんな事を云うじゃありませんか、怖(こわ)い時に」

「そうかな。あんまり聞かないようだが。それで」

「それで虎が上野の老杉(ろうさん)の葉をことごとく振い落すような勢で鳴くでしょう。物凄いでさあ」

「そりゃ物凄いだろう」

「どうです冒険に出掛けませんか。きっと愉快だろうと思うんです。どうしても虎の鳴き声は夜なかに聞かなくっちゃ、聞いたとはいわれないだろうと思うんです」

「そうさな」と主人は武右衛門君の哀願に冷淡であるごとく、寒月君の探検にも冷淡である。

この時まで黙然(もくねん)として虎の話を羨(うらや)ましそうに聞いていた武右衛門君は主人の「そうさな」で再び自分の身の上を思い出したと見えて、「先生、僕は心配なんですが、どうしたらいいでしょう」とまた聞き返す。寒月君は不審な顔をしてこの大きな頭を見た。吾輩は思う仔細(しさい)あってちょっと失敬して茶の間へ廻る。

茶の間では細君がくすくす笑いながら、京焼の安茶碗に番茶を浪々(なみなみ)と注(つ)いで、アンチモニーの茶托(ちゃたく)の上へ載せて、

「雪江さん、憚(はばか)りさま、これを出して来て下さい」

「わたし、いやよ」

「どうして」と細君は少々驚ろいた体(てい)で笑いをはたと留める。

「どうしてでも」と雪江さんはやにすました顔を即席にこしらえて、傍(そば)にあった読売新聞の上にのしかかるように眼を落した。細君はもう一応協商(きょうしょう)を始める。

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